在宅医療夏期講習総論を受講しました。

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本日は、いばらき診療所みとの丸山善治郎先生の在宅医療夏期講習を受講しました。

総論という事なので、在宅医療の考え方からプラスαまでいろいろと学ぶことができました。

私が特に印象に残ったことは、3つ。

1.Narrative based medicine(NBM)とEvidence based madicine(EBM)について

2.専門を捨てる力

3.生き様は死に様

ナラティブに基づく医療(NBM)という言葉は、直訳では「物語に基づく医療」ということで、その患者さんが生きてきた”自分史”によりそった医療を提供していこうという考え。エビデンスに基づく医療(EBM)はご承知のとおり科学的根拠に基づく医療である。

今回のお話としては、わかりやすく喫煙の例であげると、その人がずっと喫煙をしていて、終末期であるとしたとき、最後は自分らしくありたいということで、喫煙しながら、好きな事をして死を迎えるという考え方もあり、ということ。

科学的根拠に基づけば、喫煙は「百害あって一利なし」なわけで、当然、喫煙など認められないだろう。

しかし、その人の人生観や尊厳ということを深く考えた場合、のこりわずかの人生という場面で、最後は自分らしく死んでいきたいと思う事を誰も否定できる人はいないはずである。だからといって、100%喫煙OKではないが、考え方として、その人の人生に、NBMとEBM、どちらに寄り添った方がその人は幸せか、人生に満足できるか?ということ。

患者の満足度、幸福度はあくまで主観的評価であり、その人にしか本当のところわからない。だからこそ、意思を示せなくなった患者などは、その人にとってBESTはどういう状態かということを考えて判断できるキーパーソンも重要な役割を持っている。仮にその人の生きざまが、自分勝手でわがままで。。。なんていう人がいて、その人のキーパーソンは、その人について真剣に考えてくれるだろうか?結局、生き様=死に様という点は非常に共感できた。

在宅医療を考える上で、EBMももちろん大切であるが、NBMによった考え方もケースによってはとても重要な考え方であるという事は、実践の中でも、私自身大切にしている価値観である。

在宅医療は、「生活」が成り立って初めて成立するものであり、生活を整えるためには、その人の人生など、「専門家」としてもフィルターを通さずに、全人的にとらえる必要があり、さらに生活は環境とともに成り立つものだから、インフラの状況など、しっかり把握しなくてはならない。「専門を捨てる力」ということは、私としてはステレオタイプを払拭し、バイアスのない視点でその人と、その人を取り巻く環境をアセスメントできる能力だと感じた。

ここからは、受講して現実との比較について述べてみたい。

今、介護業界(特に訪問介護)は、必要最低限の平成12年以前の措置に基づく福祉の姿に戻りつつある。

寝たきりの患者がいて、そのひとは、ちいさな窓から外の景色を眺めていることで、季節の移ろいを感じ、若き日に一生懸命世話をした自分の樹木達に愛着を持ちながら、日々生活しているという状況で、その窓が汚れているから、拭いてあげるという行為を持ってして、介護報酬を得る事は出来ない。

これは指定訪問介護事業所の事業運営の取扱等について(平成12年11月16日老振第76号)による。
要は、窓ふきはいつもやる日常的な掃除だから、大掃除的扱いとして、介護保険でヘルパーが業務中に行う事は不適切であるという解釈に基づいている。確かに、窓ふきだけを持って、介護報酬を請求するということは疑問だが、多くのケアマネは、ヘルパーが窓ふきをするなんて、とんでもない!と感じる人は少なくない。しかし、その患者にとっては、その窓から見える景色が生きがいならば、その部分の窓を5分で掃除する位、いちいち目くじら立てる必要はないのでは?と感じている。

こんなものはほんの一部だ。教科書や研修で介護で大切な事はQOLの向上だ、などと言いながら、実際は必要以外(やらなくても命に別条はない)行為はやる必要はないという考え方を持った人が多くいる。

EBMもNBMも医療(Medicine)なわけだが、この場合は、EBMとNBMは対抗概念になるが、これが介護(Care)であれば、どうだろう。仮にそれぞれEBC(エビデンスに基づく介護)とNBC(ナラティブに基づく介護)という概念があったとしよう。ナラティブアプローチにより、全人的な把握をした場合、科学的には矛盾があったとしても、それはその人にとって生き甲斐であり、生きる活力につながるとすれば、それは立派なエビデンスになりえるのではないだろうか?介護においては、ナラティブもエビデンスとして包括してもいいじゃないか?それができるから介護は面白いんじゃないかって考える。でも実際は上述のとおり。これにより、介護業界全体で思考停止状態のヘルパーやケアマネージャーが多く、非常にもどかしいと私は感じている。

だから、思考停止の人間には、この夏期講習を受けてもらい、在宅を支援する人間としての基本を身につけてもらいたいのだ。行政がダメって言っているから、とかケアマネがダメと言ったからとか、そんなことはどうでもよい。

その患者がどんな満足を得られるか、そのために自分ができる事は何か?

これを真摯に考え、日々悩み続ける人、それが本当の意味で患者に寄り添うと言う事であり、そんな意識を持った集団が水戸在宅ケアネットワークだと皆が胸を張って言える日が来るといいなと思う。

来週は各論。思考停止状態の人に対しての具体的なアプローチなど聞けると嬉しい。あとEBMからNBMへとパラダイムシフトさせる働きかけは、どうすべきかについても今後考えていきたい。

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